読書・書評

『夜と霧』あらすじ&感想

モエコ

過酷すぎる環境に置かれたとき、人はどのような精神状態に陥るのでしょうか。

つらい環境、つらい毎日が繰り返されると、私たちの心は疲れ果てて生きる希望が見えなくなることもありますよね。

では、生と死が紙一重で混在する究極の環境に身を置くことになってしまったら、人はどのような精神状態に陥るのでしょうか。

今回ご紹介する本は『夜と霧』です。

第二次世界大戦下のナチス強制収容所で、被収容者となってしまった心理学者・精神医学者である著者のヴィクトール・フランクル。

心理学者としてではなく「ごく普通の被収容者」として労働させられた著者が、極限状態におかれた人々の心理状態を書き記した1冊です。

極限状態を生き抜くために必要なこととは、いったい何だったのでしょうか。

夜と霧

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『夜と霧』概要

【著者】
ヴィクトール・E・フランクル

【こんな人におすすめ】
*心理学、精神医学に興味がある人
*歴史、ホロコーストについて学びたい人
*困難な状況に立ち向かっている人
*人生に意味が見出せない人

【著者のその他の作品】

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『夜と霧』内容

〈わたしたちは、おそらくこれまでのどの時代の人間も知らなかった「人間」を知った。
では、この人間とはなにものか。
人間とは、人間とはなにかをつねに決定する存在だ。
人間とは、ガス室を発明した存在だ。
しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ〉

「言語を絶する感動」と評され、人間の偉大と悲惨をあますところなく描いた本書は、
日本をはじめ世界的なロングセラーとして600万を超える読者に読みつがれ、現在にいたっている。
原著の初版は1947年、日本語版の初版は1956年。その後著者は、1977年に新たに手を加えた改訂版を出版した。

世代を超えて読みつがれたいとの願いから生まれたこの新版は、
原著1977年版にもとづき、新しく翻訳したものである。

私とは、私たちの住む社会とは、歴史とは、そして人間とは何か。
20世紀を代表する作品を、ここに新たにお送りする。

『夜と霧』ヴィクトール•フランクル著、みすず書房(2002/11/6)

この本『夜と霧』をひと言でまとめると、

ポイント

極限の状況に置かれた人々が陥る心理状態を知り、人が生きる上で必要なこととは何かを学べる本

です。

強制収容所での体験

第二次世界大戦下のナチス強制収容所。
被収容者となってしまった心理学者・精神医学者である著者のヴィクトール・フランクルの体験記として物語は綴られています。

収容所に捕らえられた人々の心の反応を①「収容」②「収容所生活」③「解放」の3段階に分類し、その様子や変化が記されています。

強制収容所での生活

強制収容所は、現代の日本を生きる私たちには想像もつかないほど、過酷で不条理で、生と死が紙一重に存在する場所でした。

収容されたその瞬間から、人権も名前も全ての持ち物も。過去も経歴も家族も。
何もかもが奪われていきます。
そして被収容者たちに与えられたのは、識別番号だけでした。

(『夜と霧』の表紙に記されている「119104」という数字は、著者ヴィクトール・フランクルの識別番号だそうです。)

強制収容所では、労働力にならないと見なされた者は、容赦なく殺されていきました。
飢えと寒さ、疫病が蔓延する中で強いられる過酷な労働。
先が見えない地獄のような生活が、いつまで続くのか。
自分はいつまで生きることができるのか。

そんな悲惨な生活を、フランクルは約2年半耐え忍びました。

収容生活における人々の変化

過酷な生活の中で、被収容者たちには様々な変化が起こります。

苦しい生活から逃れるため自ら死を選ぶ者。
無感情の状態に陥り、理不尽な暴力や仲間の死を目の前にしても何も感じなくなる者。
自分の未来を信じることができず、心が破綻していく者。

こうして多くの被収容者たちが命を落としていきました。

生き残ることができた人々とは?

しかし、このような環境の中でも生き残ることができた人々がいました。
どのような人たちだったのでしょうか?

それは、「生きる希望を失わなかった人」だったんです。

作中に、このようなエピソードが紹介されています。

医長によると、この収容所は一九四四年のクリスマスと一九四五年の新年のあいだの週に、かつてないほど大量の死者を出したのだ。これは、医長の見解によると、過酷さを増した労働条件からも、悪化した食糧事情からも、季候の変化からも、あるいは新たにひろまった伝染性の疾患からも説明がつかない。むしろこの大量死の原因は、多くの被収容者が、クリスマスには家に帰れるという、ありきたりな素朴な希望にすがっていたことに求められる、というのだ。クリスマスの季節が近づいても、収容所の新聞はいっこうに元気の出るような記事を載せないので、被収容者たちは一般的な落胆と失望にうちひしがれたのであり、それが抵抗力におよぼす危険な作用が、この時期の大量死となってあらわれたのだ。

『夜と霧』ヴィクトール•フランクル著、みすず書房(2002/11/6)

クリスマスに解放されるという希望で命をつないでいた人たちも、その希望が叶わなかった絶望から命を落としてしまうという事例がたくさんあったんですね。

反対に「生きる希望を失わなかった人たち」は、自暴自棄になったり感情を失うことなく、未来を信じて前向きな行動を取り続けていました。
また、あるときは過酷すぎる現実ではなく「希望の世界」に意識を向けることで、地獄のような収容所生活を乗り切ったのです。


わたしたちが生きる意味とは

収容所での生活に耐えるためには、「生きる目的」が必要でした。
しかし、生きる目的を失った者については以下のような記述がされています。

ひるがえって、生きる目的を見出せず、生きる内実を失い、生きていてもなにもならないと考え、自分が存在することの意味をなくすとともに、頑張り抜く意味も見失った人は痛ましいかぎりだった。そのような人々はよりどころを一切失って、あっという間に崩れていった。あらゆる励ましを拒み、慰めを拒絶するとき、彼らが口にするのはきまってこんな言葉だ。

「生きていることにもうなんにも期待がもてない」

『夜と霧』ヴィクトール•フランクル著、みすず書房(2002/11/6)

このように、生きる目的や希望を失ってしまうような状況に追いやられたときどのように考えればいいのか。
フランクルはこのように語っています。

「ここで必要なのは、生きる意味についての問いを百八十度方向転換することだ。わたしたちが生きることからなにを期待するかではなく、むしろひたすら、生きることがわたしたちからなにを期待しているかが問題なのだ、ということを学び、絶望している人間に伝えねばならない。哲学用語を使えば、コペルニクス的転回が必要なのであり、もういいかげん、生きることの意味を問うことをやめ、わたしたち自身が問いの前に立っていることを思い知るべきなのだ。」

『夜と霧』ヴィクトール•フランクル著、みすず書房(2002/11/6)

つまり、私たちは生きることに意味を見出そうとし、それが思い通りにいかない時に絶望してしまいます。
人生自体を投げ出したくなってしまうこともあるでしょう。

しかし、私たちのすべきことは「人生の意味を探す」ことではなく、「私たちが人生に対して何を与えられるか」を考えることなのではないでしょうか。

それは、与えられるのを待っているのではなく、あなたが与えに行くということ。
人生の意味を見つけるのではなく、人生の意味を作るのはあなた自身であるということです。

フランクルが置かれた強制収容所という環境は、過酷の極みだったことでしょう。
そんな環境下におかれても、その状況をどうとらえるかは一人一人に与えられた「唯一の自由」だったのです。

そして未来を信じ抜く選択をした者だけが、生き残ることができたんですね。

感想

第二次世界大戦下におけるナチスの強制収容所に関する本は、これまでも何冊か読んだことがありました。
ただ、『夜と霧』は心理学者・精神医学者という著者の視点から語られており、他の書籍とはまた違った角度から戦争を見つめることができました。凄惨な場面の描写が話の中心ではないため、このようなシーンが苦手な方にも比較的読みやすいかと思います。

強制収容所という悲惨な環境での人々の感情の変化。
私たちはここまでの悲惨な状況下で過ごしているわけではありませんが、辛い状況に絶望し生きる希望を失ってしまうこともあると思います。これは、被収容者たちの心の動きと通ずるものがありますね。

人生に絶望してしまうとき。
それはフランクルが語るように、私たちが手に入らない物ばかりを追い求め、いつでも「与えられること」を期待してしまっているからなのかもしれないと考えさせられました。

どのような環境下でも、その状況をどうとらえるかは最後まで一人一人に与えられた自由。
これはいつも心に留めておきたい考え方だと思いました。

まとめ

現代の私たちにも通ずる極限の状況を乗り越える考え方。

悲惨な戦争体験から学べることは本当にたくさんあると考えさせられる1冊です。

歴史、平和、そして人の弱さと強さ。
大切なものがギュッと詰まった名作です。
ぜひ1度、じっくりと読んでみてくださいね。

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